肉、野菜、魚、炭水化物

お砂糖とスパイスとなにか素敵なものなんかで出来てない人間

SHIBUYA201217

大島智子さんの初個展を見に行った。

その日は更に個展内で私の好きなアーティストである、挫・人間の下川リヲさんが弾き語りをするというものだから、前日の夜は久しぶりに楽しみな事が出来て遠足前の子供のように興奮してしまいよく眠れなかった。
場所はスペイン坂にあるGALLEY X BY PARCOというパルコのギャラリーで、「パルコでもロイホでもラブホでもいいよ」という個展名にも"パルコ"が含まれいる。展示されてる絵は、多くの人が渋谷のイメージの一つとしてパルコを思い浮かべるように、渋谷が関係して描かれているものが何作品もあり、渋谷に生きる女の子が描かれていた。
色んな欲に塗れている渋谷、寂しさをネオンで誤魔化せる街。飲食店も風俗もラブホテルも、ネットカフェもビジネルホテルもなにもかも揃っていて多くの人でにぎわう華やかな若者文化の街である。
丁度、渋谷が厚底靴を履いたコギャルやアムラーで賑わっていた90年代生まれの私は、小さい頃から渋谷に強い憧れを持っていたし、小学生時代に放送されていたアニメ、ギャルズの影響から高校生になったら絶対渋谷のギャルになり厚底靴で渋谷を歩きたいという夢があった。

実際、"渋谷の高校生"にはなれなかったけど高校時代は仲の良かった男女3人で渋谷でルームシェアしてた友達の家に入り浸り、夏休みなど長期の休みには親には県外の女の子の友達の家にしばらく泊まりに行くと嘘をつき(お母さんが男の子がいるという事を知ると反対するため)半同棲みたいな事をし、"渋谷にいる高校生"にはなれた。しかし、その頃の渋谷にはもう小さい頃に憧れていたアムラーもルーズソックスの女子高生もコギャルもいなくなっていた。それでも、良かった。服は109で買い、夜には友達の家からタクシーに乗ってセンター街に繰り出し、メッカでプリクラを撮ったり、意味もなくドンキホーテに行ったり、タピオカを飲んだり、時には飲みに行ったり、渋谷での出来事はおろか、渋谷にいるという事さえ全て親は知らないで私がこんな事をしてるって思うとなんだかとっても悪い事をしてるようで、でも常に新鮮でドキドキしていた。大好きな人たちがいて、憧れの街。毎日が楽しくて、キラキラしていて、青春だったのだ。それだけで良かった。

その生活は半年続いた。その半年の中でも長い休み以外はちゃんと平日は地元の学校に行って、土日は友達の家といった生活であったから、正確に言うともっと短かった。その短い期間の中でも語りきれない色々な事があって、失ったものも多かった。綺麗とは言えないものも見てきて、楽しいことばかりではなく、傷付いたり、惨めで、苦しくて、恥ずかしいような思いも沢山してきた。ついでに言えば、初体験を終えた場所も道玄坂のラブホテルだった。
大島先生のイラストを見ていたら、そんな高校時代の自分を思い出した。どことなくだるそうで、低層概念が緩くて、あまり頭が良くないようなどこにでもいる青い女の子。大島先生の女の子が渋谷に生きるように、あの時の自分は紛れもなく渋谷にいる人間だったんだ。イラストから伝わる空気もキャラクターの思いも、全部経験した事がある。全く違うのに、まるで当時の自分を思い出す。胸が締め付けられるかのように苦しい。展示の一つである大島先生の作品を作り出す上でのアイディアやラフが描いてあるノートを捲ると、最初のページに着物を着てツインテールをした女の子と龍の絵が「あけおめ」の文字と共に描いてあった。
2012年の干支は辰だ。私はちょうどその時、渋谷に入り浸っていた時期で、まさに友達の家に無地の年賀はがきにツインテールの着物を着た女の子と龍を描いた年賀状を出した事を思い出した。私にとってとても大切な思い出がある2011年から2012年。家族だって言ってくれた女の子にちょっと意地悪されちゃった事、夜中に飲んだタピオカは本当はちょっと味が薄くて美味しくなかった事、信じていたのにヤリ逃げされてしまった事、みんなでろくに見た事もないあいのりごっこをして遊んだ事、好きだった人が2人で一緒に住みたいと言ってくれた事、クリスマスでプレゼント交換をした事、コタツに入ってガキ使を見ながらみんなで2012年を迎えた事。書ききれないほどもっともっと色んな思い出や感情がノートに描いてあったそのイラストを見た時に、非常に勝手だがあまりにも重なってしまってついに抑えていた感情が溢れ出して泣いてしまった。
またその後始まった私のもう一つの目当てであった大好きな挫・人間下川リヲさんの弾き語りライブでは彼が高校時代に作ったという「そばにいられればいいのに」(最新アルバム『もょもと』収録)という曲で、優しい曲調と下川さんの感情が詰まった歌い方で5年間片思いをしていた渋谷の家にいた男の子の事を思い出してしまい鳴咽が出るほど泣いてしまった。あの頃に遊びに行ってた家はもう友達は誰も住んでいないし、タピオカを飲んだお店ももうなくなっている。メッカも場所は変わってしまって、昔よく買い物をしたブランドも109にはもう入っていない。宮下公園は閉鎖され、初売りに行ったパルコは老朽化で建て替え中、彼が働いていたスペイン坂の雑貨屋ももうない。彼ともしばらく会っていないし、私も昔彼に煙草を吸わないでほしいと言われたのを律儀にずっと守っていたが、彼への思いを断ち切るように数年前に煙草を吸い始めた。みんなとしていた約束も果たされないままだ。2017年の今、なにもかも変わってしまった。それなのにタイムスリップしたかのように個展内は私の、また多くの人の青春が詰め込まれてる大好きだった"渋谷"が確かにあった。個展から駅までの帰り道、懐かしくなって昔よく歩いた道を一人で遠回りして歩いてみたりしたけれど、初めて渋谷に来た人のように街並みの写真を何枚か撮ってしまうぐらいには5年前とはなにもかも変わってしまった渋谷がなんだかとても愛おしくて、一瞬だけ高校生だった自分に戻れた気がした。私は確かに、渋谷に生きていたんだ。
今回初めて大島先生の作品も原画を実際に見ることが出来て、下川リヲ氏の弾き語りという形式でのライブも聴けて、作品の恥ずかしいぐらいの噓のない人間臭さを感じて久しぶりに心に沁みるような感動をした。

前回のブログにも書いたように最近はあまり元気がなかったけれど、今回の素晴らしい個展を見れた事で少し持ち直す事が出来た気がする。本当にありがとうございました。

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